上槽とは?日本酒の搾り方3つの方法と種類を徹底解説

上槽とは?日本酒の搾り方3つの方法と種類を徹底解説 醸造技術

最終更新: 2026-05-16

日本酒のラベルに「中取り」「あらばしり」「袋吊り」と書かれているのを見たことはないでしょうか。これらはすべて、醪(もろみ)を搾る工程「上槽(じょうそう)」に関わる用語です。日本酒造組合中央会によると、2024年度時点で全国に約1,600の酒蔵が存在しますが、搾り方は蔵ごとに異なり、その選択が酒の個性を大きく左右します。

「上槽って具体的にどんな作業?」「搾り方で味がどう変わるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、上槽の基本的な仕組みから、3つの代表的な搾り方の特徴、さらに搾りの段階ごとの味わいの違いまで、醸造技術の観点から詳しく解説します。まず上槽の定義と役割を説明し、次に搾り方の種類を比較、最後に蔵人がどのようにタイミングを見極めているかをお伝えします。

上槽(じょうそう)とは?日本酒造りにおける搾りの基本

上槽とは、発酵が完了した醪を搾って清酒と酒粕に分離する工程のことです。「搾り」「槽掛け(ふながけ)」とも呼ばれます。酒税法上、この工程を経ることで初めて「清酒」としての定義を満たすことになるため、日本酒造りにおいて法的にも技術的にも重要な工程です。

項目 内容
読み方 じょうそう
別名 搾り、槽掛け、しぼり
工程の位置づけ [醪の発酵](https://kurabito.jp/brewing/nihonshu-hakko-shikumi/)完了後、火入れ・貯蔵の前
目的 醪を清酒と酒粕に分離する
法的意味 酒税法上、搾った時点で「清酒」の定義を満たす
所要時間 方法により数時間〜3日間

上槽の工程では、醪を布や袋に入れて液体(清酒)と固体(酒粕)を分けます。この分離の方法によって酒の味わい、香り、透明度が大きく変わるため、蔵元にとっては酒質を決定づける重要な判断ポイントとなります。

日本酒造りの全体工程は「精米→洗米・浸漬→蒸米→麹造り→酒母→醪→上槽→火入れ→貯蔵」という流れで進みます。上槽はこの終盤に位置し、それまでの醸造工程の成果がここで一気に形になる瞬間です。

上槽の方法3種類を徹底比較|槽搾り・機械搾り・袋吊り

日本酒の上槽には、大きく分けて3つの方法があります。それぞれの特徴を理解すると、日本酒のラベル情報からどのような味わいが期待できるか推測できるようになります。

搾り方3種類の比較表

項目 槽搾り(ふなしぼり) 機械搾り(自動圧搾機) 袋吊り(ふくろづり)
圧力のかけ方 自重+ゆるやかな加圧 機械による均一な圧力 無加圧(重力のみ)
所要時間 1〜3日 数時間〜半日 1〜2日
酒質の傾向 きめ細やかで柔らか 安定して雑味が少ない 繊細で透明感がある
生産量 少量〜中量 大量生産向き ごく少量
設備コスト 中程度 高い(数百万〜数千万円) 低い(袋と竿のみ)
人手 2〜3人必要 1人で操作可能 2人程度
代表的な使用場面 特別純米酒〜大吟醸 普通酒〜本醸造 鑑評会出品酒・限定酒

1. 槽搾り(ふなしぼり)

槽搾りは、木製や金属製の「槽(ふね)」と呼ばれる容器を使い、醪を詰めた酒袋を積み重ねて搾る伝統的な方法です。

搾りの手順は次のとおりです。まず、醪を細長い布袋(酒袋)に入れて口を折り畳みます。その酒袋を槽の中に整然と並べていきます。最初は袋の自重だけで自然に液体が流れ出し、その後徐々に上から板を載せて圧力を加えます。

この方法の最大の長所は、圧力のコントロールが細かくできる点です。急激な加圧を避けるため、雑味の原因となる成分が出にくく、きめ細やかで柔らかい味わいの酒に仕上がります。佐瀬式と呼ばれる木槽を用いた伝統的なスタイルは、現在でも品質重視の蔵で好んで使用されています。

一方、手作業による工数が多く、搾りに1〜3日ほどかかるため、大量生産には向きません。小規模から中規模の蔵、あるいは特定銘柄に限定して採用されることが多い方法です。

2. 機械搾り(自動圧搾機・ヤブタ式)

現在の日本酒造りで最も広く使われているのが、自動圧搾機による搾りです。「ヤブタ式」の名で知られるこの機械は、薮田産業株式会社が開発したもので、全国の蔵の約8割が導入しているとされています。

仕組みはシンプルで、蛇腹状に折りたたまれた濾布の間に醪を送り込み、両側から空気圧をかけて搾ります。均一な圧力で効率よく搾れるため、酒質が安定しやすく、作業時間も数時間〜半日で完了します。

機械搾りのメリットは次の3点です。第一に、大量の醪を短時間で処理できること。第二に、酒に触れる空気が少なく酸化のリスクが低いこと。第三に、操作が比較的簡単で少人数でも運用できることです。

ただし、設備の導入コストは数百万円から大型のものでは数千万円に及びます。また、搾りの途中で圧力の微調整が難しいため、槽搾りに比べると細やかな酒質のコントロールが利きにくい面があります。

3. 袋吊り(ふくろづり)

袋吊りは、醪を入れた酒袋を吊り下げ、一切の加圧をせずに重力だけで自然に滴り落ちる酒を集める方法です。「雫酒(しずくざけ)」「雫取り」とも呼ばれます。

冷蔵庫内やタンクの上部に渡した竿に酒袋を吊り下げ、1〜2日かけてぽたぽたと滴る酒を集めます。圧力をかけないため、雑味や苦味の原因となる成分がほとんど混じりません。そのため、非常に繊細で透明感のある、華やかな香りを持つ酒が生まれます。

その反面、採取できる量はきわめて少なく、同量の醪から槽搾りや機械搾りで得られる量の半分以下になることもあります。このため、袋吊りで搾った酒は「鑑評会出品酒」や「限定品」として高い価格帯で販売されるのが一般的です。全国新酒鑑評会に出品する酒を袋吊りで搾る蔵は少なくありません。

あらばしり・中取り・責め|搾りの段階で変わる味わい

上槽では、搾り始めから搾り終わりまでの間に、出てくる酒の性質が変化します。この変化に応じて、酒は大きく3つの段階に分けられます。

段階 別名 特徴 味わい ラベル表記
あらばしり 荒走り 搾り始め、自重で出る部分 フレッシュで香り高い、やや荒い 「あらばしり」「荒走り」
中取り 中垂れ、中汲み 軽い加圧で出る中間部分 バランスが良く雑味がない 「中取り」「中汲み」
責め 押し切り 強い圧力で搾り切る最後の部分 複雑な旨みと渋み 「責め」(単独販売は少ない)

あらばしり(荒走り)

搾りの最初に、まだ圧力をかけていない段階で醪自体の重みによって自然に流れ出る酒です。白く濁ることが多く、炭酸ガスを含んでいるためピリッとした刺激を感じることもあります。フレッシュな果実のような香りが特徴で、できたての勢いのある味わいが楽しめます。

中取り(中垂れ・中汲み)

あらばしりの後、適度な圧力をかけて搾る中間の部分です。1回の上槽で得られる酒の過半数を占めるこの部分は、透明度が高く、香りと味のバランスが最も優れた「一番おいしいところ」とされています。日本酒のラベルに「中取り」と書かれていれば、その蔵が自信を持って送り出す品質の証と考えてよいでしょう。

責め(押し切り)

中取りの後に、さらに強い圧力をかけて搾り切る最終段階です。力をかけるぶん雑味が出やすく、酸味や渋みが強くなりますが、一方で深い旨みや複雑な味わいがあります。一般的に責めの酒だけで製品化されることは少なく、他の段階の酒とブレンドして味を調整するために使われます。

蔵人の視点|上槽のタイミングをどう見極めるか

上槽は単に「搾るだけ」の作業ではありません。いつ搾るかという判断が酒質を大きく左右します。ここでは、蔵の現場で実際にどのような基準でタイミングが決められているかを紹介します。

醪の状態チェック項目

蔵人が上槽のタイミングを判断する際には、以下の指標を総合的に確認します。

チェック項目 目安 判断のポイント
日本酒度 +2〜+5(普通酒の場合) 目標値に到達しているか
アルコール度 17〜20度 発酵の進み具合を示す
酸度 1.2〜1.8 味のキレと関連する
アミノ酸度 1.0〜1.5 旨みの強さを示す
醪の泡の状態 泡が落ち着いている 発酵のピークを過ぎた証拠
醪の香り フルーティーから落ち着いた香りへ 搾り時の香り立ちに影響
醪日数 20〜35日(品種により異なる) 標準的な発酵期間

実際の現場では、杜氏や上槽担当の蔵人が毎日醪の分析値を確認しながら、「あと1日待つか、今日搾るか」をギリギリまで悩むことがあります。特に大吟醸酒の場合は低温で長期間発酵させるため、醪日数が30日を超えることも珍しくなく、搾るタイミングを1日間違えるだけで味のバランスが崩れてしまうことがあります。

ベテランの蔵人は、分析データだけでなく、醪の表面の状態(「筋泡」と呼ばれる細い泡が走るかどうか)や、醪をすくった際の粘度、さらには蔵の室温や外気温まで考慮して判断しています。この経験に基づく判断力が、同じ酒米・同じ酵母を使っても蔵ごとに異なる味わいが生まれる理由の一つです。

並行複発酵という独特の発酵メカニズムを理解していると、なぜ上槽のタイミングがこれほど重要なのかがより深く理解できます。糖化と発酵が同時に進む日本酒の醪では、搾る時点での糖とアルコールのバランスが最終的な味を決定づけるためです。

搾り方と酒のグレードの関係

搾り方は、日本酒のグレードや価格帯とも密接に関わっています。純米酒と大吟醸の違いを知っている方なら、搾り方の選択が酒質にどれほど影響するかイメージしやすいでしょう。

酒のグレード よく使われる搾り方 理由
普通酒・本醸造 機械搾り(ヤブタ式) 大量生産向き、安定した品質
特別純米・純米吟醸 機械搾り or 槽搾り コストと品質のバランス
大吟醸・純米大吟醸 槽搾り きめ細やかな酒質を実現
鑑評会出品酒・限定品 袋吊り 最高品質を追求

酒米の品種精米歩合にこだわった大吟醸酒を、あえて機械搾りで仕上げる蔵もあります。これは、機械搾りの方が空気に触れにくく、繊細な香りを損ないにくいという判断によるものです。つまり、「伝統的な方法が常に良い」わけではなく、目指す酒質に合わせて最適な搾り方を選ぶのがプロの仕事です。

近年はハイブリッドなアプローチも増えています。たとえば、普段は機械搾りで安定した品質を確保しつつ、限定品やコンテスト出品酒だけ槽搾りや袋吊りで仕上げる蔵は全国に多数あります。

上槽に関するよくある質問

Q1: 上槽と「おり引き」は同じですか?

別の工程です。上槽は醪を搾って清酒と酒粕に分離する工程で、おり引きは上槽後の清酒を静置して沈殿した澱(おり)を取り除く工程です。上槽が先で、おり引きがその後に行われます。

Q2: 「無濾過生原酒」の搾り方は決まっていますか?

搾り方に決まりはありません。「無濾過」は濾過をしていないこと、「生」は火入れをしていないこと、「原酒」は加水をしていないことを意味します。搾り方は蔵によって異なり、槽搾りの蔵もあれば機械搾りの蔵もあります。

Q3: 家庭で上槽を体験する方法はありますか?

どぶろく造りの延長として小規模な搾り体験ができるワークショップが一部の酒蔵で開催されています。ただし、酒税法により個人での酒の製造は原則禁止されているため、自宅で清酒を造ることはできません。体験したい場合は蔵の見学イベントへの参加がおすすめです。

Q4: あらばしりと中取り、どちらが高価ですか?

一般的には中取りの方がやや高価な傾向にあります。中取りは最もバランスの良い部分とされ、蔵の看板商品に使われることが多いためです。ただし、あらばしりの独特のフレッシュ感を好むファンも多く、季節限定品として人気があります。価格差は銘柄にもよりますが、四合瓶(720ml)で数百円〜千円程度の違いが一般的です(2026年時点)。

Q5: 搾った後の酒粕はどうなりますか?

酒粕は食品として広く活用されています。粕漬け、甘酒、粕汁などの料理のほか、近年は化粧品や美容製品の原料としても需要が伸びています。日本酒造組合中央会によると、酒粕の再利用は酒蔵の副収入としても重要な位置づけにあります。搾り方によって酒粕の質感も異なり、板状の「板粕」や柔らかい「バラ粕」などがあります。

Q6: 搾りたてのお酒はいつ飲めますか?

上槽直後の酒は「しぼりたて」として冬季〜春先にかけて出荷されることが多いです。毎年11月〜翌3月頃が新酒のシーズンです。火入れをしない生酒として出荷されるため、フレッシュな味わいが特徴ですが、冷蔵保存が必須で賞味期限も短めです。

関連記事: 速醸酛(そくじょうもと)とは?仕組み・生酛との違い・蔵人の実務を徹底解説

まとめ:上槽の方法と種類を知って日本酒をもっと楽しもう

上槽(搾り)の要点を整理しましょう。

  • 上槽とは醪を搾って清酒と酒粕に分離する工程で、酒税法上「清酒」が生まれる瞬間である
  • 搾り方は「槽搾り」「機械搾り(ヤブタ式)」「袋吊り」の3種類があり、それぞれ酒質が異なる
  • 搾りの段階は「あらばしり」「中取り」「責め」の3段階に分かれ、味わいが変化する
  • 蔵人は醪の分析値と五感を使って搾りのタイミングを判断しており、この見極めが酒の品質を左右する
  • 搾り方は酒のグレードや目指す味わいに応じて選ばれ、「伝統が常に最善」とは限らない

日本酒を選ぶ際に、ラベルの「中取り」「あらばしり」「袋吊り」といった表記に注目してみてください。搾り方を知ることで、同じ蔵の同じ銘柄でも味わいの違いを楽しめるようになります。

醸造技術についてさらに詳しく知りたい方は、日本酒の専門用語をまとめた用語集もあわせてご覧ください。また、上槽の前工程にあたる仕込み水が日本酒に与える影響についても理解を深めると、日本酒の味わいをより立体的に捉えられるようになります。

参考情報

  • 国税庁「清酒の製造状況等について」(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/seizojokyo/07.htm) — 清酒製造場数・製造数量の公式統計
  • 国税庁「酒税法における『清酒』の定義」(https://www.nta.go.jp/about/council/sake-bunkakai/021127/shiryo/07a.htm) — 清酒の法的定義(「こしたもの」の要件)
  • SAKE Street「日本酒の搾り方と味の違いを知ろう!」(https://sakestreet.com/ja/media/learn-sake-filterlation) — 搾り方の種類と特徴の解説
  • 薮田産業株式会社 公式サイト「薮田式自動醪搾機」(http://www.yabuta.co.jp/products/products02.html) — ヤブタ式自動圧搾機の製品情報
  • 日本酒造組合中央会(https://www.japansake.or.jp/sake/about/data/index.html) — 酒蔵数・業界統計データ



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