並行複発酵とは?日本酒だけの醸造技術をわかりやすく解説

並行複発酵とは?日本酒だけの醸造技術をわかりやすく解説 醸造技術

最終更新: 2026-05-14

日本酒のもろみは、醸造酒としては世界最高水準となるアルコール度数22%前後に達します。ワインが14%前後、ビールが5%前後であることを考えると、この数値は異例と言えるでしょう。その秘密が「並行複発酵」という、日本酒だけに見られる発酵方式です。

「並行複発酵って聞いたことはあるけど、具体的に何がすごいのかよくわからない」「ビールやワインの発酵と何が違うの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、並行複発酵の仕組みを基礎からわかりやすく解説し、他の発酵方式との違い、三段仕込みとの関係、そして蔵人が現場でどのように温度を制御しているかまでお伝えします。まず並行複発酵の定義を押さえ、次に3つの発酵方式を比較し、最後に蔵人目線での実践的な知識をご紹介します。

並行複発酵とは?基本をわかりやすく解説

並行複発酵(へいこうふくはっこう)とは、1つのタンクの中で「糖化」と「アルコール発酵」の2つの化学反応が同時に進行する発酵方式のことです。日本酒の醸造において最も特徴的な技術であり、世界中のどの醸造酒にも見られない独自のプロセスとして知られています。

具体的には、麹菌(アスペルギルス・オリゼー)の酵素が米のデンプンをブドウ糖に分解する「糖化」と、酵母がそのブドウ糖をアルコールと炭酸ガスに変える「発酵」が、もろみの中で絶え間なく繰り返されます。

項目 内容
定義 糖化と発酵が同一容器内で同時に進行する発酵方式
由来 日本の伝統的な酒造りから生まれた技術。少なくとも室町時代には原型が確立
特徴 醸造酒として世界最高水準のアルコール度数(もろみで約20〜22%)を実現
担い手 麹菌(糖化担当)と酵母(発酵担当)の2つの微生物が主役

ここで注目すべきは、糖化と発酵が「別々のタイミング」ではなく「同時に」進む点です。麹が作り出す糖を酵母がすぐに消費するため、タンク内のブドウ糖濃度は常に低く保たれます。この仕組みが、酵母への糖ストレスを軽減し、長期間にわたる安定した発酵を可能にしています。

3つの発酵方式を比較|単発酵・単行複発酵・並行複発酵の違い

醸造酒の発酵方式は大きく3種類に分けられます。並行複発酵の特徴をより深く理解するために、他の2つの方式と比較してみましょう。

単発酵(ワインなど)

単発酵は、原料そのものに糖分が含まれているため、酵母を加えるだけでアルコール発酵が始まる最もシンプルな方式です。ワインの原料であるブドウにはブドウ糖と果糖が豊富に含まれており、糖化の工程を必要としません。

単行複発酵(ビールなど)

単行複発酵は、原料のデンプンをまず糖に変換し(糖化)、その後に別の工程で発酵を行う方式です。ビールの場合、大麦を発芽させて麦芽(モルト)を作り、麦芽の酵素でデンプンを糖化した「麦汁」を作ってから、酵母を加えて発酵させます。糖化と発酵が「別々の段階」で行われる点が特徴です。

3方式の比較表

比較項目 単発酵(ワイン) 単行複発酵(ビール) 並行複発酵(日本酒)
糖化工程 不要(原料に糖が含まれる) 発酵の前に別工程で実施 発酵と同時にタンク内で実施
代表的な酒 ワイン、シードル ビール、マッコリ 日本酒
原料 ブドウなど果実 大麦麦芽など 米、米麹
糖化の担い手 なし 麦芽の酵素 麹菌の酵素
アルコール度数の目安 12〜14%程度 4〜6%程度 もろみで20〜22%程度
発酵期間 2〜4週間 1〜2週間 約3〜4週間(もろみ日数)

並行複発酵が他の方式と決定的に異なるのは、糖化と発酵が「同じタンクの中で」「同時に」進行する点です。糖化で生じたブドウ糖を酵母が逐次消費するため、ブドウ糖の濃度が低いレベルに維持されます。その結果、酵母は高濃度の糖によるストレスを受けずに済み、長期間にわたって活発に発酵を続けることができます。これが、日本酒が醸造酒として世界最高水準のアルコール度数を達成できる理由です。

並行複発酵のメカニズム|なぜ高アルコールが実現するのか

並行複発酵で高いアルコール度数が生まれる仕組みを、もう少し詳しく見ていきましょう。

糖化のプロセス

米のデンプンは、そのままでは酵母が利用できません。ここで活躍するのがです。蒸米に種麹を振りかけて約48時間かけて育てた米麹には、アミラーゼなどの糖化酵素が豊富に含まれています。この酵素がデンプンをブドウ糖に分解します。

発酵のプロセス

糖化によって生じたブドウ糖を、酵母がアルコールと炭酸ガスに変換します。日本酒に使われる酵母(清酒酵母)は、きょうかい酵母をはじめ多くの種類があり、それぞれ異なる香りや味わいを生み出します。

「同時進行」が生む好循環

並行複発酵の最大のポイントは、この2つの反応が絶え間なく繰り返されることにあります。

ステップ 反応内容 結果
糖化 麹の酵素がデンプンをブドウ糖に分解 ブドウ糖がもろみ中に供給される
発酵 酵母がブドウ糖をアルコールに変換 ブドウ糖が消費され、濃度が下がる
糖化(継続) 糖濃度が下がると酵素反応が促進される さらにブドウ糖が供給される
発酵(継続) 供給されたブドウ糖を酵母が再び消費 アルコールが蓄積されていく

このサイクルが約3〜4週間にわたって続くことで、もろみのアルコール度数は最終的に20%前後にまで達します。もしブドウ糖を一度に大量に加えると、酵母は高濃度の糖によるストレス(浸透圧ストレス)で活動が鈍り、発酵が途中で止まってしまいます。並行複発酵では糖が「少しずつ」供給されるため、酵母が健全に活動し続けられるのです。

並行複発酵と三段仕込み|蔵人はどう制御しているのか

並行複発酵を安定的に進めるために、日本の蔵人たちが編み出した技法が「三段仕込み」です。これは、蒸米・米麹・仕込み水を4日間で3回に分けてタンクに投入する方法で、並行複発酵を安全かつ効率的に進行させるための知恵と言えます。

三段仕込みの流れ

日程 工程名 投入内容 目的
1日目 初添(はつぞえ) 蒸米・麹・仕込み水を酒母に加える 酵母を新しい環境に慣らす
2日目 踊り(おどり) 投入なし(休み) 酵母を増殖させる時間を確保
3日目 仲添(なかぞえ) 初添の約2倍量を追加 発酵基質を段階的に増やす
4日目 留添(とめぞえ) 仲添の約2倍量を追加 最終的な仕込み総量に到達

一度に全量を投入しない理由は明確です。酵母の数が少ない段階で大量の蒸米と水を加えると、酵母の密度が急激に低下し、雑菌に汚染されるリスクが高まります。3回に分けて徐々に増量することで、酵母の密度を維持しながら安全に仕込みを進められるのです。

この三段仕込みによって、並行複発酵に必要な「麹菌と酵母のバランス」が保たれます。実際の酒蔵では、杜氏や蔵人が毎日もろみの温度、ボーメ度(糖度の指標)、アルコール度数を計測し、糖化と発酵のバランスが崩れていないかを確認しています。

蔵人の現場から見た並行複発酵の温度管理

並行複発酵において、蔵人が最も神経を使うのが温度管理です。糖化酵素と酵母はそれぞれ活動しやすい温度帯が異なるため、両者のバランスを取ることが美味しい日本酒を造る鍵となります。

もろみの温度経過(一般的な普通酒の場合)

工程 温度帯 管理ポイント
初添直後 12〜13℃ 酵母の活動を促しつつ雑菌の繁殖を抑える
踊り〜仲添 徐々に上昇 1日あたり約1℃ずつ上げていく
最高温度(普通酒) 12〜13℃ 糖化と発酵のバランスが最適になる温度帯
最高温度(吟醸酒) 8〜10℃ 低温でゆっくり発酵させ、吟醸香を引き出す
上槽前 温度を下げる 発酵を穏やかにして搾りの準備をする

吟醸酒や大吟醸酒の場合、もろみの温度を8〜10℃程度の低温に保ちます。低温では発酵がゆっくり進み、もろみ日数が30日以上になることもあります。この「低温長期発酵」によって、フルーティーな吟醸香が生まれるのです。

蔵人の仕事の中でも、もろみの温度管理は特に経験と勘が求められる場面です。現代では温度センサーやデータロガーを導入する酒蔵も増えていますが、最終的な判断は杜氏や熟練の蔵人が五感で行うケースがまだまだ多いのが実情です。温度だけでなく、もろみの泡の状態、香り、色の変化を総合的に観察し、糖化と発酵のバランスが崩れていないかを日々確認しています。蔵人の仕事内容について詳しく知りたい方は、関連記事もあわせてご覧ください。

並行複発酵が日本酒の味わいに与える影響

並行複発酵は、高いアルコール度数だけでなく、日本酒特有の複雑な味わいを生み出す要因でもあります。

糖化と発酵が同時に進行することで、もろみの中にはブドウ糖だけでなく、アミノ酸やクエン酸、コハク酸などの有機酸、さらにエステル類(香り成分)が複雑に生成されます。これらの成分が絡み合うことで、甘味・酸味・旨味・苦味・渋味の「五味」が調和した、奥行きのある味わいが実現します。

酒母の仕込み方法によっても味わいは大きく変わります。生酛や山廃仕込みでは、乳酸菌の働きによって乳酸が生成されるため、より力強く複雑な酸味を持つ日本酒になります。一方、速醸仕込みでは醸造用乳酸を添加するため、よりクリーンで軽快な味わいに仕上がる傾向があります。

また、使用する酒米の品種精米歩合によっても、糖化の速度やアミノ酸の生成量が変わるため、並行複発酵の結果として生まれる味わいは多様です。同じ蔵、同じ酵母を使っても、原料米を変えるだけで全く異なる日本酒になるのは、並行複発酵ならではの奥深さと言えるでしょう。

日本酒業界の最新データについては、日本酒・酒蔵業界の統計まとめページで定期更新しています。

並行複発酵に関するよくある質問

Q1: 並行複発酵は日本酒以外のお酒にも使われていますか?

並行複発酵は基本的に日本酒特有の発酵方式です。ただし、中国の紹興酒など一部の東アジアの醸造酒でも類似の発酵形態が見られます。紹興酒の場合は麹の種類や原料が異なるため、厳密には日本酒の並行複発酵とは区別されることが多いです。

Q2: 並行複発酵ではなぜワインよりもアルコール度数が高くなるのですか?

ワインの単発酵では、ブドウの糖分が一度にすべて酵母に供給されるため、アルコール度数が14%程度に達すると酵母自体が高アルコール環境に耐えられなくなり、発酵が止まります。一方、並行複発酵では糖が少しずつ供給されるため、酵母が高濃度の糖によるストレスを受けにくく、より長く発酵を続けることができます。

Q3: 並行複発酵の「並行」とは何と何が並行しているのですか?

「糖化」と「アルコール発酵」の2つのプロセスが並行して(同時に)進行していることを指します。「複発酵」は、単純な発酵ではなく糖化という別の工程を伴う複合的な発酵であることを示しています。

Q4: 並行複発酵を成功させるために最も重要な要素は何ですか?

温度管理と麹の品質が最も重要です。麹の糖化力が弱いと酵母に十分な糖が供給されず、発酵が停滞します。逆に糖化が速すぎると糖濃度が上がりすぎて酵母にストレスがかかります。蔵人はもろみの温度を1日1℃単位で調整し、このバランスを保っています。

Q5: 家庭で並行複発酵を再現することはできますか?

日本では酒税法により、アルコール度数1%以上の酒類を無免許で製造することは禁止されています(酒税法第7条)。そのため、家庭で並行複発酵による日本酒造りを行うことはできません。日本酒の並行複発酵を体験したい方は、[酒蔵見学](https://kurabito.jp/uncategorized/sakagura-kengaku-osusume/)に参加するのがおすすめです。多くの酒蔵で冬の仕込み時期に見学を受け付けており、実際のもろみを間近で観察できます。

Q6: 並行複発酵と[日本酒の発酵の仕組み](https://kurabito.jp/brewing/nihonshu-hakko-shikumi/)はどう違いますか?

並行複発酵は日本酒の発酵における「方式」や「形態」を指す言葉です。日本酒の発酵プロセス全体(洗米・蒸米から上槽まで)の中で、もろみタンク内で起きている現象を説明する概念が並行複発酵です。つまり、並行複発酵は日本酒の発酵の仕組みの「核心部分」と言えます。

関連記事: 上槽とは?日本酒の搾り方3つの方法と種類を徹底解説

関連記事: 速醸酛(そくじょうもと)とは?仕組み・生酛との違い・蔵人の実務を徹底解説

まとめ:並行複発酵のポイント

  • 並行複発酵とは、麹による糖化と酵母による発酵が同一タンク内で同時に進行する日本酒独自の醸造技術
  • ワインの単発酵、ビールの単行複発酵と比較して、最も複雑で高度な発酵方式
  • 糖が少しずつ供給される仕組みにより、醸造酒として世界最高水準のアルコール度数(もろみで約20〜22%)を実現
  • 三段仕込みは並行複発酵を安全に進めるための伝統技法で、4日間かけて3回に分けて原料を投入する
  • 蔵人は温度・ボーメ度・アルコール度数を毎日計測し、糖化と発酵のバランスを維持している

並行複発酵は、日本酒が持つ複雑で奥深い味わいの根幹にある技術です。まずはお手元の日本酒のラベルを見て、純米酒や大吟醸の違いを意識しながら味わってみてください。並行複発酵の知識があると、同じ一杯でもこれまでとは違った深みが感じられるはずです。

醸造の世界にさらに興味がある方は、醸造に関する資格の取得も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

参考情報

  • 月桂冠「糖化と発酵を同時にバランスよく進め、高いアルコール分を生み出す発酵の仕組み」(https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/sake/brewing/brewing05.html)
  • 日本酒造組合中央会「日本酒の製造工程」(https://japansake.or.jp/sake/about-sake/sake-brewing-processes/)
  • 灘酒研究会「単発酵・単行複発酵・並行複発酵」(http://www.nada-ken.com/main/jp/index_ta/260.html)
  • SAKE Street「日本酒をユニークにする『並行複発酵』とは」(https://sakestreet.com/ja/media/what-is-heiko-fuku-hakko)
  • 八海醸造「もろみ仕込み」(https://www.hakkaisan.co.jp/vision/story/sakedukuri/kodawari13)



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