最終更新: 2026-09-08
日本醸造協会が現在頒布している清酒用のきょうかい酵母は、6号系から1901号まで11系統あります。そのうち、頒布開始から90年を超えて使われ続けているのは6号酵母だけです。1935年(昭和10年)10月に頒布が始まった6号酵母は、2025年10月で頒布90周年を迎えました。それより前に頒布されていた1号から5号は、すべて戦前のうちに姿を消しています。
「新政のラベルに書いてある6号酵母って何が特別なの?」「7号や9号と比べて味や香りはどう違うの?」「蔵人として6号を扱うとき、何に気をつければいいの?」こうした疑問を持って検索した方も多いはずです。酵母の番号は日本酒の香味を左右する重要な手がかりですが、番号ごとの違いを体系的に説明した情報はまだ少ないのが実情です。
この記事では、6号酵母の定義と発見の経緯、1号から5号が消えて6号だけが生き残った理由、低温耐性と穏やかな香りという性質の中身、7号・9号・1801号との比較、生酛との相性、蔵人が現場で6号を扱うときの実務ポイント、そして新政No.6をはじめとする使用銘柄まで、醸造の視点で解説します。まず6号酵母の基礎を押さえ、次に歴史と性質、最後に銘柄と飲み方へ進む構成です。
6号酵母とは?日本酒の現役最古のきょうかい酵母

6号酵母(ろくごうこうぼ)とは、日本醸造協会が「きょうかい6号」の名称で頒布している清酒酵母のことです。1930年(昭和5年)の冬、当時の大蔵省醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)の技師だった小穴冨司雄(おあな ふじお)が、秋田市の新政酒造の醪(もろみ)から酵母を採取し、そのなかから香気が高く発酵力の強い菌株を選抜したものが原点です。発祥蔵の名を取って「新政酵母」と呼ばれることもあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | きょうかい6号酵母(泡なし株はきょうかい601号) |
| 別名 | 新政酵母、K6 |
| 分離元 | 新政酒造(秋田県秋田市)の醪 |
| 分離年 | 1930年(昭和5年)冬 |
| 分離者 | 小穴冨司雄(醸造試験所技師) |
| 頒布開始 | 1935年(昭和10年)10月、日本醸造協会 |
| 現在の位置づけ | 現在も頒布中のきょうかい酵母では最古 |
| 香りの傾向 | 穏やかで澄んだ香り、発酵中に果実様の芳香 |
| 発酵の傾向 | 低温でも発酵力が強く、糖をよく消費する |
きょうかい酵母は、日本醸造協会が優良な清酒酵母を純粋培養し、全国の酒蔵に頒布している酵母群の総称です。「6号」「7号」のように番号で管理され、6号から14号までには発酵中に高泡を出さない「泡なし株」があり、末尾に01を付けて601号、701号のように呼びます。泡なし株は泡の管理が不要でタンクの容量を有効に使えるため、現在では泡なし株の方が主流になっています。
酵母そのものの働き、つまり糖をアルコールと炭酸ガスに変えながら香気成分を生み出す仕組みについては、日本酒の酵母の種類と香りの違いの記事で全体像を整理しています。本記事はそのなかでも6号酵母に絞って深掘りします。
6号酵母の歴史:1〜5号が消えて6号だけが残った理由
6号酵母の価値を理解するには、それ以前のきょうかい酵母がどうなったかを知るのが近道です。日本醸造協会による酵母の頒布は1917年(大正6年)に始まりましたが、初期の酵母は現在ひとつも残っていません。
| 番号 | 分離元 | 分離年 | 頒布期間 | 現状 |
|---|---|---|---|---|
| 1号 | 櫻正宗(兵庫県灘) | 1906年 | 1917〜1935年 | 頒布終了 |
| 2号 | 月桂冠(京都府伏見) | 1908〜1911年頃 | 1917〜1939年 | 頒布終了 |
| 3号 | 醉心(広島県三原) | 1914年 | 1931年頃に中止 | 頒布終了 |
| 4号 | 広島県内の蔵 | 1924年 | 1931年頃に中止 | 頒布終了 |
| 5号 | 賀茂鶴(広島県西条) | 1923年頃 | 1925〜1936年 | 頒布終了 |
| 6号 | 新政(秋田県秋田市) | 1930年 | 1935年〜現在 | 頒布中 |
出典: 灘酒研究会「灘の酒用語集」、日本醸造協会および各種醸造文献をもとに編集部作成(2026年9月時点)
6号が「一強」になった理由は低温での発酵力
1号から5号は、灘・伏見・広島という当時の三大銘醸地の蔵から分離されたものでした。これに対して6号は、寒冷な東北の秋田で分離された酵母です。6号の最大の武器は、10℃前後という低い温度帯でも発酵を止めずに進める耐冷性でした。それまでの酵母では発酵が鈍りやすかった低温域でも、6号は醪を最後まで発酵させ切ることができたのです。
1935年に頒布が始まると、6号は全国の酒蔵に急速に広まり、それまでの酵母への注文は自然と途絶えていきました。結果として1号から5号の頒布は1930年代のうちに終了し、6号だけが残りました。酒蔵にとって「どんな気候でも安定して発酵が進む」ことは、酒質の安定と失敗の回避に直結します。6号が選ばれたのは、味や香りの好みというより、醸造の現場が求める確実さを備えていたからでした。
発祥蔵での「再発見」と全量6号への転換
興味深いのは、発祥蔵である新政酒造自身が、長らく6号酵母を主役に据えていなかったことです。戦後の新政は他の蔵と同様に、時代ごとの流行酵母を使い分けていました。転機は8代目の佐藤祐輔氏が2007年に蔵へ入ってからで、2009年頃から使用酵母を6号系に限定する方針へ転換しました。その後、2012年に全量純米へ移行し、秋田県産米への限定、速醸酛の廃止、木桶仕込みの導入と改革を重ねています。
新政酒造の歩みと現在のラインナップについては、新政(あらまさ)完全ガイドで詳しく取り上げています。6号酵母は「古い酵母」として保存されていたのではなく、発祥蔵が自らの歴史を取り戻す象徴として現代に呼び戻された酵母だという点を押さえておいてください。
6号酵母の特徴:低温耐性・発酵力・穏やかな香りの中身
ここからは6号酵母の性質を、醸造の視点で具体的に見ていきます。
特徴1: 10℃前後の低温でも発酵を維持する
醸造文献では、6号酵母は10〜12℃程度の低温でも強い発酵力を維持すると記載されています。清酒の醪は温度が低いほど発酵がゆっくり進み、雑味の原因になる成分の生成が抑えられます。一方で、酵母の力が弱いと途中で発酵が止まり、糖が残って狙いより甘い酒になってしまいます。6号は低温で長く引っ張っても発酵をやり切る力があるため、「低温長期発酵でキレのある酒を造る」という設計が成り立ちます。
特徴2: 糖の消費がよく、辛口に仕上がりやすい
6号は糖をよく消費する酵母です。醪の糖分を最後までアルコールに変換しやすいため、日本酒度がプラス側に振れやすく、いわゆる完全発酵に近い辛口の酒質になりやすい傾向があります。ただし、酸は7号酵母よりやや少なめに出るとされ、キレはあるが刺々しくない、旨みに深みのある味わいにまとまりやすいのが持ち味です。
特徴3: 香りは穏やかで澄んでいる
灘酒研究会の用語集では、6号酵母は「おだやかで澄んだ香りを発し、湧付前後に果実様の芳香を放つ」と説明されています。湧付(わきつき)とは、醪の表面が発酵の炭酸ガスで泡立ち始める段階のことです。9号や1801号のように、りんごや洋梨を思わせるカプロン酸エチルを前面に押し出すタイプではありません。その代わり米由来の旨みや酸の輪郭が素直に出るため、料理と合わせる食中酒に向いた酒になります。
特徴4: 上面発酵的な性質を持つ
醸造文献では、6号酵母について「上面発酵的な性質を多く備えている」と表現されます。上面発酵とはビールのエール酵母に代表される、発酵中に酵母が液面近くに集まりやすく、酸素を使う呼吸の能力が比較的強い性質のことです。日本酒の酵母のなかでは、6号は皮膜を作りやすく、醪の管理に少し癖がある酵母だと言われる理由がここにあります。ビール酵母における上面発酵と下面発酵の違いについては、姉妹メディアBrewHubのビール酵母の種類と違いの解説も参考になります。
特徴5: 後続のきょうかい酵母の祖先系統にあたる
独立行政法人酒類総合研究所を中心とする清酒酵母ゲノム解析コンソーシアムは、きょうかい7号のゲノム配列を解読し、2011年に発表しました。この研究では、清酒酵母は約11.87メガベースのゲノムを持つ二倍体で、きょうかい酵母どうしはゲノムレベルで極めて近縁であることが示されています。7号以降の主要なきょうかい酵母は、6号と同じ系統から派生したと考えられており、そのため6号は「清酒酵母の原点」と評されることがあります。
酵母がアルコール発酵を行う仕組みそのものを整理したい方は、日本酒の発酵の仕組みの記事をあわせて読むと、6号の性質が醪のどの段階に効いてくるかが立体的に見えてきます。
6号・7号・9号・1801号の違いを比較
きょうかい酵母は番号によって性格がはっきり異なります。6号を理解するうえで、比較されることの多い3系統と並べてみましょう。
| 項目 | 6号(601号) | 7号(701号) | 9号(901号) | 1801号 |
|---|---|---|---|---|
| 分離元 | 新政酒造(秋田) | 宮坂醸造・真澄(長野) | 熊本県酒造研究所 | 日本醸造協会の育種 |
| 分離・頒布 | 1930年分離、1935年頒布 | 1946年分離 | 1953年頃分離 | 2006年頒布開始 |
| 香りの強さ | 穏やか | 中程度で華やか | 強い(りんご・洋梨系) | 強い(バランス型) |
| 主な香気成分 | 控えめ | 酢酸イソアミル寄り | カプロン酸エチル | カプロン酸エチルと酢酸イソアミルの両方 |
| 酸の出方 | やや少なめ | 中程度 | やや少なめ | 少なめ |
| 発酵力 | 強い、低温に強い | 強い、扱いやすい | 低温長期向き | 強い |
| 向く酒質 | 食中酒、生酛系、生酒 | 普通酒から吟醸まで万能 | 吟醸酒、鑑評会出品酒 | 大吟醸、鑑評会出品酒 |
| 生酒との相性 | 非常によい | よい | よい | よい |
出典: 日本醸造協会の頒布情報および各種醸造文献をもとに編集部作成(2026年9月時点)
7号酵母は6号より16年後に分離された酵母で、香りにほどよい華やかさがあり扱いやすいため、現在もっとも広く使われています。7号を生んだ宮坂醸造については真澄の完全ガイドで詳しく解説しています。9号と1801号は吟醸香を強く出す酵母で、全国新酒鑑評会の出品酒に多く使われてきました。華やかな香りの日本酒を探している方は、フルーティーな日本酒おすすめ10選の記事が参考になります。
6号は香りの派手さでは他の3系統に及びません。それでも6号を選ぶ蔵が増えているのは、香りで勝負するのではなく、米と造りの個性を酒に映し出せる酵母だからです。同じ蔵が同じ米で6号と7号を仕込み分けると、6号の方が香りが静かで、口に含んだときの旨みの層と余韻の酸が際立ちます。
6号酵母が生酛と相性がよい理由
6号酵母を語るとき、必ずセットで出てくるのが生酛(きもと)造りです。新政酒造が全量生酛へ移行したことも、両者の相性を象徴しています。
生酛とは、人工の乳酸を添加せず、蔵に棲む乳酸菌の働きで酒母を育てる伝統的な製法です。生酛の酒母は乳酸菌が生み出す酸と、雑菌との生存競争を経て酵母が育つため、酒母の中は酵母にとって厳しい環境になります。ここで6号酵母の「発酵力が強く、糖の濃い環境でも増殖が阻害されにくい」という性質が生きます。
また、生酛で育った酵母は低温かつ高いアルコール濃度でも活動を続けます。低温で長期間醪を引っ張れば、糖からアルコールへの変換率が上がり、完全発酵に近い雑味の少ない辛口酒になります。6号酵母の耐冷性と発酵力は、この生酛の設計思想とまっすぐ噛み合うのです。
味わいの面では、6号酵母の柔らかく上品な甘みと、生酛由来の乳酸の酸味が合わさり、甘味と酸味のバランスが取れた酒になります。速醸酛と生酛の工程の違い、山廃との関係については、生酛と山廃の違いと速醸酛とは何かの2記事で整理していますので、酒母の基礎から確認したい方はそちらから読み進めてください。
蔵人視点:6号酵母を扱うときの実務ポイント
6号酵母は優秀な酵母ですが、癖がないわけではありません。ここでは、醸造の現場で6号を扱う際に意識したいポイントを整理します。これから蔵人を目指す方にとって、酵母の番号がどのように日々の作業に影響するかを知る手がかりになるはずです。
| 工程 | 6号酵母で意識する点 | 理由 |
|---|---|---|
| 酒母 | 泡あり株(6号)か泡なし株(601号)かを最初に決める | 泡あり株は高泡の管理と泡消し作業が必要になる |
| 醪初期 | 湧付前後の香りの変化を記録する | 果実様の芳香が立つ時期が発酵の進み具合の目安になる |
| 醪中期 | 品温を10〜12℃の低めに保つ設計が可能 | 低温でも発酵が止まりにくいため、長期発酵で雑味を抑えられる |
| 醪後期 | 日本酒度の上がり方を毎日追う | 糖の消費がよく、狙いより辛口に振れやすい |
| 上槽判断 | 香りではなく味の切れ具合で判断する | 吟醸香が立ちにくいため、香りを上槽の指標にしにくい |
| 貯蔵 | 生酒での出荷を検討する | 生酒にしたときに6号の持ち味がもっとも発揮されると評価される |
編集部メモ: 編集部が同じ蔵の同スペックで仕込まれた6号仕込みと7号仕込みの生原酒を並べて飲み比べた経験では、注いだ直後の香りの差はわずかで、違いは口に含んでから現れました。6号の方は香りが静かで、旨みが中盤にしっかり乗り、余韻に酸が残ります。7号は香りに華やかさがあり、全体が軽やかにまとまります。蔵の製造担当者が「6号は香りで誤魔化せない分、米と造りがそのまま出る」と語るのを聞いて、この酵母が現代の蔵から再評価される理由が腑に落ちました。
6号を扱う蔵の多くは、泡あり株の6号をあえて使い続けています。泡あり株は醪の表面に高い泡の層を作るため、泡消し機の運転や泡の高さの確認といった手間が増えますが、泡の立ち方そのものが発酵の状態を目で伝えてくれます。このあたりの判断は蔵ごとの方針によって分かれる部分です。蔵人としてのキャリアに関心がある方は、未経験から蔵人になるロードマップで、酒造りの1年の流れと求められる姿勢を確認してみてください。
6号酵母を使った日本酒の銘柄:新政No.6・山本・6号酵母サミット参加蔵
6号酵母で仕込まれた日本酒を実際に飲んでみたい方のために、代表的な銘柄と蔵を紹介します。
新政 No.6:6号酵母の名を冠した生酒シリーズ
新政酒造の「No.6(ナンバーシックス)」は、6号酵母の名をそのまま冠した生酒のシリーズです。すべて生酛造りで仕込まれ、火入れをせずに出荷されます。精米歩合と米のグレードによって3つのタイプに分かれています。
| タイプ | 名称の意味 | 位置づけ | 備考 |
|---|---|---|---|
| R-type | Regular | スタンダード | 純米酒クラスの精米歩合 |
| S-type | Superior | 中核 | 純米吟醸クラスの精米歩合 |
| X-type | eXcellent | 最上位 | 純米大吟醸クラスの精米歩合 |
精米歩合は年度によって見直されており、2025年版のX-typeでは麹米30%・掛米35%まで磨いた仕様が販売店で確認できます(2026年9月時点)。いずれも生酒のため、購入後は冷蔵保管が必須です。新政酒造は特約店制度を取っており、一般の量販店で入手するのは難しいため、正規特約店か抽選販売を利用してください。
山本 6号酵母:発祥蔵から譲り受けた酵母で醸す純米吟醸
秋田県八峰町の山本酒造店が醸す「山本 6号酵母 純米吟醸 生原酒」は、新政酒造から6号酵母を譲り受けて仕込んだ酒です。同じ蔵が7号酵母で仕込んだ「山本 7号酵母」と2本セットで販売されることもあり、酵母の違いだけを純粋に比較できる教材のような存在です。6号と7号の違いを自分の舌で確かめたい方には、この飲み比べがもっとも手軽な方法です。
6号酵母サミット:6号を使う9蔵が集まる年次イベント
6号酵母を使う蔵が集まる「6号酵母サミット」というイベントもあります。主催はLa Jomonという団体で、毎年6月9日に開催されています。「6」と「9」を重ねた日付です。2022年3月時点の主催関係者の発信によると、参加蔵は以下の9蔵です。
- 新政酒造(秋田県)
- 喜久盛酒造(岩手県)
- 秀鳳酒造場(山形県)
- 鈴木酒造店 長井蔵(山形県)
- 土田酒造(群馬県)
- 仁井田本家(福島県)
- 水戸部酒造(山形県)
- 油長酒造(奈良県)
- 吉川醸造(神奈川県)
参加蔵の顔ぶれを見ると、生酛や山廃といった伝統的な酒母造りに力を入れる蔵、無添加や自然派の酒造りを掲げる蔵が多いことがわかります。6号酵母は、こうした「造りの個性をそのまま酒に出したい」蔵に選ばれている酵母だと言えます。秋田県には6号の発祥蔵である新政のほかにも個性的な蔵が集まっており、秋田の日本酒蔵元ガイドで県内の主要な蔵をまとめています。
6号酵母の日本酒をおいしく飲むコツ
6号酵母の酒は香りが穏やかで旨みと酸が主役です。飲み方のポイントは3つあります。
- 温度は10〜15℃を基準にする。冷やしすぎると旨みが閉じ、常温に近づけると酸と旨みが開く
- 生酒は開栓後1週間を目安に飲み切る。冷蔵庫で立てて保管し、光を避ける
- 料理は出汁の効いた和食、発酵食品、脂の乗った魚と合わせる。酸が脂を切り、旨みが出汁と重なる
新政No.6のように生酛と生酒を組み合わせた酒は、開栓から数日で味が変化します。初日と3日目を比べる楽しみ方も、6号酵母の酒ならではです。
6号酵母に関するよくある質問
Q1: 6号酵母はいつ、誰が発見したのですか?
1930年(昭和5年)の冬に、大蔵省醸造試験所(現在の酒類総合研究所)の技師だった小穴冨司雄が、秋田市の新政酒造の醪から分離しました。日本醸造協会からの頒布は1935年(昭和10年)10月に始まり、2025年10月で頒布90周年を迎えました。
Q2: 6号酵母と601号酵母の違いは何ですか?
601号は6号の泡なし変異株です。発酵中に高泡を出さない性質を持ち、泡の管理や泡消し作業が不要になります。酒質の方向性は6号と共通ですが、蔵によっては泡の立ち方を発酵管理の目安にするため、あえて泡あり株の6号を使い続けているところもあります。
Q3: 6号酵母の日本酒はどんな味がしますか?
香りは穏やかで澄んでおり、りんごや洋梨のような強い吟醸香は前面に出ません。糖の消費がよいため辛口に仕上がりやすく、米由来の旨みと余韻の酸がはっきり感じられる食中酒向きの味わいになります。生酛と組み合わせると、柔らかな甘みと乳酸の酸味のバランスが取れた酒になります。
Q4: 6号酵母はなぜ新政以外の蔵でも使われているのですか?
6号は日本醸造協会が頒布しているきょうかい酵母のひとつなので、どの蔵でも入手して使うことができます。新政酒造が発祥蔵として全量6号で仕込むのに加え、秋田の山本酒造店のように新政から譲り受けた酵母で仕込む蔵や、6号酵母サミットに参加する各地の蔵が使用しています。
Q5: 6号酵母と7号酵母はどちらが優れていますか?
優劣ではなく用途の違いです。7号は香りにほどよい華やかさがあり扱いやすく、普通酒から吟醸酒まで幅広く使えるため、現在もっとも多くの蔵で採用されています。6号は香りが穏やかで低温での発酵力が強く、生酛系や生酒、食中酒の設計に向きます。米と造りの個性を出したい蔵は6号、香りのバランスを重視する蔵は7号を選ぶ傾向があります。
Q6: 1号から5号のきょうかい酵母はなぜなくなったのですか?
1935年に頒布が始まった6号酵母が、低温でも強い発酵力を発揮する性質で全国の蔵に急速に広まったためです。それまでの酵母への注文が途絶え、1号から5号の頒布は1930年代のうちに終了しました。現在頒布されているきょうかい酵母のなかで、戦前から続いているのは6号だけです。
Q7: 蔵人を目指すなら6号酵母について何を学ぶべきですか?
まず、酵母の番号によって発酵の進み方と香味の方向が変わることを理解してください。そのうえで、6号については低温耐性、糖の消費のよさ、泡あり株と泡なし株の違い、生酛との相性の4点を押さえておくと、現場での醪管理や上槽判断の意図が読み取れるようになります。酒母や醪の基礎は本記事で紹介した関連記事から学べます。
関連記事: 日本酒の9号酵母とは?吟醸酒ブームを生んだ熊本酵母の特徴・歴史・銘柄を徹底解説
関連記事: 日本酒の7号酵母とは?全国の蔵が選ぶ万能酵母の特徴・歴史・銘柄を徹底解説
まとめ:6号酵母のポイント
6号酵母について、この記事の要点をまとめます。
- 6号酵母は1930年に新政酒造の醪から分離され、1935年から頒布が続く現存最古のきょうかい酵母である
- 10℃前後の低温でも発酵力を維持する耐冷性によって、1号から5号を置き換え、戦前のうちに唯一生き残った
- 香りは穏やかで澄んでおり、糖の消費がよく辛口に仕上がりやすい。食中酒や生酛系、生酒の設計に向く
- 7号や9号、1801号と比べると香りの派手さでは劣るが、米と造りの個性を酒に映し出せる
- 発祥蔵の新政酒造が2009年頃から全量6号へ転換し、No.6シリーズや6号酵母サミットを通じて再評価が広がっている
6号酵母を体感したい方は、まず新政No.6のS-typeか、山本の6号・7号飲み比べセットから始めるのが近道です。酵母の番号を意識して飲むと、日本酒の味わいの成り立ちがぐっと具体的に見えてきます。
日本酒の酵母全般については本文中で紹介した酵母の種類の記事で、酒母の製法については生酛と山廃の違いの記事で、それぞれ詳しく解説しています。醸造用語で迷ったときは日本酒用語集も活用してください。
この記事は蔵人編集部が執筆しました。蔵人 -KURABITO- は日本酒と醸造所、醸造キャリアに特化した専門メディアです。詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 灘酒研究会「灘の酒用語集 きょうかい6号酵母」(https://www.nada-ken.com/main/jp/index_ki/194.html)— 分離年・分離者・頒布開始年・香味特性の検証に使用
- 日本醸造協会「きょうかい酵母」(https://www.jozo.or.jp/yeast/)— 現在の頒布酵母ラインナップの確認に使用
- 独立行政法人酒類総合研究所「清酒酵母ゲノム解析」(https://www.nrib.go.jp/data/sygd.html)— きょうかい7号ゲノム解読(2011年)と酵母間の近縁性の検証に使用
- 日本醸造協会誌「清酒酵母のゲノム解析:その現状と展望」(2012年、J-STAGE)— ゲノムサイズと近縁性の検証に使用
- SAKETIMES「6号酵母」および「きょうかい酵母の実態に迫る」— 1〜5号の頒布終了経緯と6号の耐冷性の検証に使用
- 吉川醸造「6号酵母サミット」(https://kikkawa-jozo.com/en/blogs/blog/no6-summit)— サミットの主催・開催日・参加蔵の確認に使用(2022年3月時点)
- IMADEYA ONLINE STORE「白瀑 山本 純米吟醸 6号・7号生原酒 2本セット」— 山本酒造店の6号酵母使用の確認に使用
- 新政酒造株式会社オフィシャルサイト「蔵歴」「No.6」および東京大学新聞オンライン 佐藤祐輔氏インタビュー(2023年3月)— 新政の6号転換時期と改革内容の検証に使用


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