2026年9月、秋田県清酒品評会が開幕した。全国の酒蔵が一年の醸造成果を競う季節が始まり、今年もまた「新酒」の話題がにわかに盛んになる。日本酒が好きな方なら、秋の酒販店で「新酒まつり」「しぼりたて入荷」の文字を目にしたことがあるだろう。しかし「新酒(しんしゅ)」とは正確には何を指すのか、「しぼりたて」や「初しぼり」とどう違うのかを、すらすらと説明できる人は意外と少ない。
本記事では、日本酒の新酒について定義・読み方・意味から、酒造年度の仕組み、しぼりたてとの違い、搾りの三段階(あらばしり・中取り・責め)、出回る時期と楽しみ方、全国新酒鑑評会の役割まで、体系的に解説する。国税庁の酒造年度基準(令和4酒造年度清酒製成数量318,254kL)や財務省貿易統計(2025年度輸出額459億円・前年比106%)といった一次情報も交えながら、知識を深めてほしい。
新酒(しんしゅ)の定義と読み方
正しい読み方は「しんしゅ」
日本酒の「新酒」は「しんしゅ」と読む。「しんざけ」と読む人もいるが、業界・酒税法上の正式な読み方は「しんしゅ」である。ただし「しんさけ」「あらさけ」と呼ぶ地域や蔵元もあり、方言的な表現として存在する。
酒税法・国税庁による定義
国税庁は、酒造年度(BY=Brewery Year)という独自の年度区分を用いて清酒を管理している。酒造年度は毎年7月1日から翌年6月30日までの1年間であり、1965年(昭和40年)の国税庁通達によって現在の形に確立された。
新酒とは、当該酒造年度(7月1日〜翌年6月30日)内に醸造・出荷された清酒を指す。つまり2026BY(2026年7月1日〜2027年6月30日)に仕込んで出荷した酒は、2027年6月末まで「新酒」として扱われる。
「古酒(こしゅ)」との対比
新酒の対義語が「古酒(こしゅ)」または「熟成酒」である。一般的には製造から1年以上が経過し、熟成によって色や香味が変化した日本酒を指す。古酒は新酒にはない深みとコクを持ち、近年「長期熟成酒研究会」が認定するブランドも増加している。
酒造年度(BY)の仕組み
なぜ7月から始まるのか、疑問に思う方も多い。日本酒の仕込みは気温が低下する秋(10月〜11月)に始まり、春(2月〜3月)に最盛期を迎えて終わる。この仕込みサイクルに合わせて、前年夏から翌年夏までを一つの醸造年度とする形が慣習として定着した。
酒造年度の呼称は「○○BY」と表記され、BYはBrewery Yearの略。「2025BY」であれば2025年7月1日〜2026年6月30日に醸造した清酒を意味する。ラベルや専門誌でよく目にする表記なので、覚えておくと便利だ。
| 酒造年度(BY) | 開始日 | 終了日 | 新酒として呼べる期間 |
|---|---|---|---|
| 2024BY | 2024年7月1日 | 2025年6月30日 | ~2025年6月30日 |
| 2025BY | 2025年7月1日 | 2026年6月30日 | ~2026年6月30日 |
| 2026BY | 2026年7月1日 | 2027年6月30日 | ~2027年6月30日(現在進行中) |
国税庁の公表によれば、令和4酒造年度(2022BY)の清酒製成数量(アルコール分20度換算)は318,254kL(前年度比5.8%増)。財務省貿易統計では2025年度の清酒輸出額が459億円(前年比106%)と過去最高水準を更新しており、国内の製成数量も輸出も、ともに増加基調で推移している。
新酒・しぼりたて・初しぼりの違いを徹底比較
「新酒」「しぼりたて」「初しぼり」は、どれも「できたての日本酒」のイメージで使われるが、厳密には異なる意味を持つ。
| 用語 | 定義 | 期間・特徴 | 代表的な販売時期 |
|---|---|---|---|
| 新酒(しんしゅ) | 酒造年度(7/1〜翌6/30)内に醸造・出荷した清酒全般 | 広義。火入れあり/なし問わない | 11月〜翌年6月 |
| しぼりたて | もろみを搾った直後、加水・貯蔵・熟成前の状態の酒 | 瑞々しく荒々しい風味。無濾過生原酒が多い | 11月〜2月(搾り直後) |
| 初しぼり(ファーストブリュー) | その酒蔵でその酒造年度最初に搾った酒 | 蔵ごとに仕込み開始時期が異なる | 10月〜12月(蔵による) |
| あらばしり | もろみを搾る工程の最初の自然流下分 | ガス感・果実感が強く、個性的 | しぼりたてと同時期 |
要点を整理すると、しぼりたては「状態」、初しぼりは「蔵の初回分」、新酒は「酒造年度内」という時間軸の概念だ。したがって、しぼりたての中でも初しぼりのものがあり、そのすべてが新酒でもある。
フランスのボジョレーヌーヴォーが毎年11月第3木曜日(2026年は11月19日)に一斉解禁されるように、日本酒の新酒も秋冬に一斉に登場する。ただし日本酒には「公式な解禁日」は存在せず、蔵ごとの搾りが終わり次第出荷される点がフランスのヌーヴォーとは異なる。
あらばしり・中取り・責め — 搾りの三段階
日本酒の醸造工程の中でも「搾り」は最も繊細な作業の一つだ。もろみを圧搾機(槽/ヤブタ式など)にかける際、搾り始めから終わりにかけて酒質が変化していく。この変化を三段階に分けて呼ぶのが業界の慣習である。
詳細は日本酒「中取り」とは?あらばしり・責めとの違いをわかりやすく解説にまとめているが、ここでは新酒として出荷される各段階の特徴を把握しておこう。
| 段階 | 呼称 | 採取タイミング | 風味の特徴 | 販売形態 |
|---|---|---|---|---|
| 第一段階 | あらばしり(荒走り) | 圧力をかける前に自然流下する分 | ガス感・フルーティー・やや荒々しい | 限定・蔵出し |
| 第二段階 | 中取り(中汲み) | 圧力をかけ始めた中盤の分 | バランス良く上品・雑味が少ない | 鑑評会出品酒など高品質ラインに多い |
| 第三段階 | 責め(せめ) | 圧力を強めた最後の分 | 酒粕の風味・苦味・コクがある | 廉価品やブレンド用に使用されることも |
新酒の中でも「あらばしり」は搾りたてのエネルギーを最も感じられる一杯として人気が高い。一方、鑑評会に出品されるのは多くが「中取り」を中心とした吟醸系の酒である。
日本酒の「無濾過」とは何かも参照しながら、新酒の「無濾過生原酒」というカテゴリの特性を把握すると、ラベル表示の意味がより深く理解できる。
新酒が出回る時期と楽しみ方
出回る時期は11月〜翌年3月が中心
日本酒の仕込みは一般的に10月〜11月に始まる。最初の酒が搾られるのは10月下旬〜11月頃で、この時期から順次「しぼりたて新酒」が市場に並び始める。最盛期は12月〜翌年2月で、春先の3月頃まで多くの蔵から新酒が出荷される。
ただし近年は「夏の新酒」や「夏しぼり」として6〜8月に出荷する蔵も増えており、通年で新酒に近いフレッシュ感のある酒が楽しめるようになった。
9月は「新酒前夜」の季節
9月は新酒のシーズン直前にあたる。この時期に市場を席巻するのが「ひやおろし(秋あがり)」だ。前酒造年度(2025BY)に仕込まれ、春に一度火入れして夏の間タンクで熟成させた酒が、秋の気温低下に合わせて出荷される。
日本酒造青年協議会が統一解禁日と定める9月9日(重陽の節句)を前後して、全国の酒蔵からひやおろしが次々と解禁される。ひやおろしは生詰め(火入れ1回)という点で通常の火入れ酒(2回)とは異なり、新酒とはまた違う円熟した旨みが魅力だ。
| 時期 | 出回る酒 | 特徴 |
|---|---|---|
| 9月(現在) | ひやおろし・秋あがり | 春仕込みを夏越しした円熟酒 |
| 10〜11月 | 初しぼり・あらばしり | フレッシュ・ガス感強め |
| 12〜2月 | しぼりたて・無濾過生原酒 | 最盛期・種類豊富 |
| 3〜6月 | 春のフレッシュ酒 | 搾り後のフィルタリング酒・春の設計 |
| 7〜8月 | 夏しぼり・夏の新酒 | 近年増加の通年型 |
9月の旬食材と新酒ペアリングガイド
新酒はフレッシュで軽やかな酸味・ガス感が特徴であり、脂ののった秋の食材と相性がよい。気象庁の1991〜2020年平年値によれば、東京の9月平均気温は23.3℃。残暑がやわらぎ「食欲の秋」が到来するこの時期は、新酒を先取りして旬の肴と合わせる絶好の機会だ。
9月の旬魚介類と相性の良い新酒タイプ
| 旬食材 | 特徴 | 相性の良い新酒タイプ | ペアリングの理由 |
|---|---|---|---|
| さんま | 旬9〜10月・脂質20〜26%・DHA 2,246mg/EPA 1,492mg(文科省八訂) | 辛口純米しぼりたて・にごり酒 | 脂の旨みに酸が対抗。炭酸ガスが口をリフレッシュ |
| 戻りがつお | 9〜10月・脂乗り最高・DHA豊富 | フルーティー系吟醸しぼりたて | 鰹の旨みに果実香が重なり上品な余韻 |
| いくら | 9〜10月(秋鮭の解禁後)・濃厚なコク | 生原酒・あらばしり | 乳酸由来の旨みとアミノ酸の相乗効果 |
9月の旬野菜・きのこ
| 旬食材 | 組み合わせ | 相性の良い新酒タイプ |
|---|---|---|
| 松茸 | 土瓶蒸し・炭火焼き | 端麗辛口の純米吟醸しぼりたて(香りを邪魔しない) |
| 栗 | 栗ご飯・渋皮煮・モンブラン | にごり酒・甘口しぼりたて |
全国新酒鑑評会 — 新酒の「祭典」
独立行政法人 酒類総合研究所が主催
全国新酒鑑評会は、独立行政法人 酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催する、清酒業界最高峰の品評会だ。毎年仕込まれた新酒を対象に審査が行われ、「入賞」「金賞」が授与される。
2026年(令和7酒造年度)の審査では、福島県が20蔵金賞を受賞し2年連続で都道府県別首位を記録した。福島は2011年の東日本大震災以降、技術力向上に取り組んできた実績が評価され続けている。
鑑評会に出品されるのは「新酒」の中でも最精鋭
鑑評会に出品されるのは、当該酒造年度に醸造した大吟醸・純米大吟醸が中心だ。審査は主に官能評価(吟味・香り・味わいの総合点)によって行われる。
鑑評会結果と市場の関係
鑑評会で金賞を受賞した酒蔵は、翌年以降のブランド力強化に大きなアドバンテージを持つ。ただし、鑑評会スペックの酒はあくまで品評会向けに最適化されており、普段使いの食中酒とは設計思想が異なる点は注意したい。
新酒の選び方・保存方法
初めてでも選びやすいポイント
新酒を初めて選ぶ場合は、以下の3点を基準にすると失敗が少ない。
1. 「無濾過生原酒」を選ぶとフレッシュ感最大:加水・濾過・火入れを省いたもろみ直結の酒。フルーティーでガス感あり。
2. 「吟醸」系のしぼりたてなら香りが際立つ:吟醸香とフレッシュ感が同時に楽しめる。
3. 「純米」しぼりたてはコク優先:米の旨みがしっかりしており、肉・魚介の脂と相性がよい。
黒龍酒造の「黒龍しぼりたて」は毎年11月下旬〜12月に数量限定で出荷される人気銘柄の一つで、フルーティーでジューシーな新酒の魅力を存分に楽しめる。
新政酒造の「あらばしり」は、2号酵母・木桶仕込みの無濾過生原酒として、独自の乳酸・リンゴ酸のバランスが特徴的。生酛造りで培った乳酸の酸とフレッシュ感が絶妙に調和する。
保存方法
新酒(特に無濾過生原酒・生酒)は要冷蔵(5℃以下)が原則だ。冷蔵庫保管でも開封後は1〜2週間以内に飲みきることが推奨される。光に弱いため、暗所保管も重要である。
| 種類 | 保存温度 | 目安の賞味期間(開封後) |
|---|---|---|
| 無濾過生原酒 | 要冷蔵(0〜5℃) | 1〜2週間 |
| 生詰め(ひやおろし等) | 冷蔵推奨 | 2〜4週間 |
| 火入れしぼりたて | 冷蔵〜常温可(冷暗所) | 1〜3か月 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 新酒(しんしゅ)は何月まで飲めますか?
A. 酒造年度内(翌年6月30日まで)に出荷された清酒は新酒です。ただし実際に市場で「新酒」として売られるのは11月〜翌年3月が中心で、鮮度が命の無濾過生原酒は搾り後2〜3か月が飲み頃のピークです。
Q2. 「しぼりたて」と「新酒」はどう違いますか?
A. 新酒は「酒造年度内に醸造した清酒全般」の広い概念、しぼりたては「搾った直後の瑞々しい状態の酒」という状態を指す言葉です。しぼりたては原則として新酒ですが、新酒がすべてしぼりたてとは限りません。
Q3. 「酒造年度(BY)」とは何ですか?
A. 清酒の醸造管理に使う独自の年度区分で、毎年7月1日〜翌年6月30日の1年間です。1965年の国税庁通達によって現在の形に確立されました。「2026BY」は2026年7月1日〜2027年6月30日に醸造した清酒を意味します。
Q4. 新酒は辛口が多いですか?甘口も選べますか?
A. 新酒にはさまざまな味わいがあります。しぼりたて・無濾過生原酒は米の旨みと酸が際立ち、やや辛口寄りに感じられることが多いですが、にごり酒系の新酒は甘みとフルーティー感が強く、甘口好みの方にも向きます。
Q5. 新酒と古酒(熟成酒)はどちらがいいですか?
A. どちらが「良い」かは目的によります。新酒はフレッシュな果実感・ガス感・若々しい酸味が魅力で、旬の魚介と合わせるのに最適です。古酒は長期熟成によって生まれる深い旨み・複雑な風味が特徴で、肉料理やチーズとの相性が抜群です。
Q6. 全国新酒鑑評会はいつ開催されますか?
A. 毎年4〜5月頃に審査が行われ、5〜6月に結果が発表されます。主催は独立行政法人 酒類総合研究所と日本酒造組合中央会です。全国の酒蔵が当該酒造年度の新酒(主に大吟醸)を出品し、官能評価によって入賞・金賞が授与されます。
Q7. 新酒の「初しぼり」と「しぼりたて」は同じですか?
A. 異なります。「初しぼり」はその蔵のその酒造年度における「最初に搾った酒」を指す言葉で、一種の限定品の呼称です。一方「しぼりたて」は搾った直後の状態を指す一般名称です。初しぼりはしぼりたてでもありますが、しぼりたてのすべてが初しぼりではありません。
まとめ
日本酒の「新酒(しんしゅ)」とは、酒造年度(7月1日〜翌年6月30日)内に醸造・出荷した清酒全般を指す言葉だ。「しぼりたて」は搾り直後の状態、「初しぼり」はその蔵の酒造年度最初の搾り分を意味し、それぞれ異なる概念である。
搾りの三段階(あらばしり→中取り→責め)を知ることで、ラベルの意味が深く理解できる。9月は新酒シーズン直前の「ひやおろし」の季節であり、さんま・戻りがつお・いくらといった旬食材と合わせることで、秋の食卓をより豊かにできる。
国税庁令和4酒造年度の製成数量318,254kL(前年度比5.8%増)、財務省貿易統計による2025年度輸出額459億円(前年比106%)が示すように、日本酒は国内外で着実に存在感を高めている。この秋、新酒の到来に先立ちひやおろしを楽しみながら、11月の初しぼり・しぼりたて到来を心待ちにしてほしい。
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参考情報
- 国税庁「清酒の製造状況等について(令和4酒造年度分)」:令和4酒造年度(2022BY)清酒製成数量318,254kL(前年度比5.8%増、アルコール分20度換算)
- 国税庁「酒のしおり」:酒造年度(BY)の定義・7月1日〜翌年6月30日の区分
- 日本酒造組合中央会・財務省貿易統計:2025年度清酒輸出額459億円(前年比106%、数量ベース約3.35万kL・前年比108%)
- 独立行政法人酒類総合研究所・日本酒造組合中央会:令和7酒造年度全国新酒鑑評会審査結果(福島県20場金賞・2年連続都道府県別首位)
- 気象庁「過去の気象データ(平年値)」:東京の9月平均気温23.3℃(1991〜2020年平年値)
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」:さんまの脂質・DHA/EPA含有量


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